それは銀色の獣


不安は真の調子をさらに悪くした。

みんなについていくのがやっとで、怨霊退治を手伝うこともできなくなっていった。

言葉はさらに少なくなり、ロウかリズヴァーンといることが多くなった。

みんなその様子を見て、何かできることはないかと思ったが、結局何もできないままだった。

「みんなの足手まといになってる」

ロウにそういうと、ロウはひどく悲しそうな顔をした。

だから、ロウにも弱音を言うこともなくなった。




「ねぇ、弁慶さん。真ちゃん、大丈夫かな?
ついて、来れるかな?」

「・・・・僕にもわかりません。だんだん、顔色も悪くなってきています。
何が原因なのか分からないので、僕としても対処のしようがないんです。
もっと、彼女について調べておくべきでした」

真が、いったい何者なのか、みんな深く考えていなかった。

こちらの世界とゆかりがあるもの。

それくらいにしか、考えていなかった。

みんな、怨霊や白龍の神子の出現、平家の陣にばかり気を取られ、その力があることをしりながら調べようとはしなかった。

真も、特に何かをしろうとしなかったことも原因のひとつになっていた。

「真ちゃん、なんであんなに自分のこと知ろうとしないんだろう。
私は、こっちに来たとき自分が何をすべきなのか知りたくて探したよ」

そういえば変だ。

ヒトとは違った力があって、さらに一緒に来た二人とは境遇が違う。

それなのに、自分について調べようともしていなかった。

「ロウだって、なんでなんにも真ちゃんにいわないんだろう」

おかしいことはたくさんあった。

だが、日々の怨霊倒しや、熊野への道の険しさに気をとられ、そんな疑問はまた消えていた。



しかし、熊野川の氾濫が怨霊の仕業で、その怨霊に襲われたとき、みんなにそのことを思い出させることになる。

思ったより強い相手にみんな苦戦していた。

真がこのところ怨霊退治に参加していなかったこともある。

しかし、みんなが苦戦している姿をみて、真がその力を使い始めた。

すると、怨霊はその姿を目に映した。

「なぜ、邪魔をするんだ!お前は私たちの仲間じゃないの?」

仲間?

「仲間?怨霊と?」

「お前が記憶を引き出してはならない!」

その会話を聞いたロウが動いた。

「封印した記憶は自分で引き出さなければならない」

そして、ロウの牙が怨霊の核を壊した。

「な、なに?」

その姿は大きな狼で。

銀色の、大きな狼がそこにいた。

思い出した記憶より、大きかったがその姿は確かに記憶にあるものだった。

「真、自分で思い出さないとダメだ」

しかし、その言葉を真が聞くことはなかった。

そして、その大きな狼はなにもいわずに熊野の山に身を隠した。

「い、今の・・・ロウだよね?」

「そうだと、思いますけど」

確かにみんなその姿が変化する瞬間を見てしまった。

「それに、あの怨霊が言ってたこと・・・」

そして、真にみんなの視線が集まった。

その姿はぐらっとゆれると、氾濫のおさまったせせらぎの中に倒れこんだ。

「真ちゃん!!!」

  




よく倒れるなぁ。
アブナイヨ。

2006.07.26