帰る場所



真が目を覚ますと、そこは勝浦の宿の部屋だった。

「ここ・・・」

「真ちゃん、気がついたの!?ちょっと待って、弁慶さん呼んでくるから」

そう言って、望美はすぐに部屋を出て行ってしまった。

そして、二人が帰ってくる前に自分に起こったことをだんだんと思い出しはじめた。

「私・・・」

「真さん、気分はいかがですか?」

二人はすぐに戻った。

真の顔色は相変わらずだが、それでもその身体の変化はみんな知っていた。

「真さん、鏡を見てください」

そっと、鏡を手渡される。

それは現代のもののように鮮明にはモノを映してくれはしない。

だが、それでもはっきりと分かるぐらいにそれはあった。

「これ・・・」

そっと額を手で触るとそこには黒い石のようなものが埋まっていた。

「倒れてから、気がついたらこうなってました。
今まではこんなに大きくなかったし、背中にありましたよね」

そう、ロウが言い当てた怪我の形とおなじ形の大きな石がそこにはあった。

「私・・・なんなんだろ・・・」

「真ちゃん、ロウさんに何かきかなかったの?」

「聞いても答えてくれないんだ。自分で思い出さないといけないって」

「で、なにか調べたの?」

「・・・ううん」

そういえば、私は自分が何者かわからなくて不安だったのに調べようとしていなかった。

つまり、本当は自分がなにものか知りたくなかったんだ。

「変だよな」

「とにかく、これを巻いておいてください。
それは目立ちます」

黒い水晶のような石は布で隠した。

「私、自分で知ろうとしてなかったんだ。だから、ロウは答えなかったんだ」

うつむいたままつぶやいて、ロウを目で探した。

「ロウは?」

「・・・・・・分からないの」

ロウが狼の姿になったことは覚えている。

だが、その後姿を消したと聞いて悲しくなった。

「狼・・・狼・・・・・」

額を隠した自分の姿を見たときに、ふと記憶がかすかに戻ってきた。

「私、前もこうしてた」

「え?」

「私、こうしてたんだ。そうだ!もともとこれはここに・・・
それに、布はロウがくれたんだ・・・」

外を走り回っているロウと、自分の姿。

そして、だんだんとその周りの様子が戻ってくる。

「な、なに?これ」

望美たちは驚いている。

自分の目の前にそののどかな光景が広がっているんだから。

川に幼い真の姿が映っている。

「母さんだ」

同じ川で水をくんでいる人がいる。

こちらに目をむけ、手を振っている。

「ロウの母さん」

ロウが、その足元へ走っていく。

狼の姿で。

そして、人へ変化した。

「ロウさん・・・」

そこで映像は切れた。

「お、思い出した・・・私、人じゃないんだ」

「人じゃない?」

それだったら説明がつく。

自分の力の説明が。

「私、妖だ」

「あやかし?」

弁慶はその言葉をきいたことがあった。

妖。

負の力を食べ生きるもの。

だが、それは迷信だと考えられていた。

なぜならその姿が見られたことがないからだ。

しかし、真はそれが存在していることが分かる。

一緒に暮らしていたのだから。

その人々は水以外に口にしない。

人が出した負のエネルギーを摂取して生きているのだ。

妖たちはそれぞれいろんな動物の姿に化けることができる。

それにヒトにはないいろいろな力があった。

それゆえ恐れられ、迫害されその姿を消したのだ。

だから、ロウはその姿を変えなかった。

「だから、何も食べてないんだ・・・」

「けど、じゃあなぜ調子は悪いの?」

その説明はつかない。だが、自分は妖なんだ。

妖の村でロウと一緒に生きていたんだ。

愛された記憶は、体中に広がり安心を生んだ。

真は満足だった。

帰る場所がある。



元気になったけど??

2006.07.26