新しい不安



みんなが寝静まった頃。

「ロウ」

一人ロウのところへ行く。
たぶんこんな時間に男の人の部屋に行くのはこの時代では考えられないことだろうけど、
今しか話す時間がないだろう。

今まで、聞こうと思っていたが聞けなかったこと。
それを今聞かなくてはいけない。

「真、どうしたんだ?こんな時間に」

ロウは、別段気にした風もなく出てきてくれた。

「話があるんだ。みんなには聞かれないほうがいいと思う」

「・・・・分かった」

そう言って、二人は今日を発つ夜。
川原へと向かった。



「聞きたいことがある。お前は、何者なんだ?」

確かに、ロウのことは思い出した。
だが、そのロウは人じゃなかった。

「私が思い出したロウは、こんな姿してなかった」

そういうと、ロウは少し驚いたが嬉しそうな顔をした。

「本当は思い出してないのに、気を使って思い出したふりしてるのかとおもった」

そう言って、ロウは笑った。

「真は全部忘れたんだな。けど、それは真が決めたことだと思う。オレの口からは言えない。


ただ・・・早く思い出して欲しい。
じゃなかったら、俺はお前の前に出てきてない。
それだけ、覚えておいてくれ」

そういうと、ロウは口をつぐんだ。

私が、自分で決めたこと?
すべてを忘れることを、私は選んだ。

どういうことだろう。

「私が決めたってどういうこと?」

けど、ロウはそれ以上なにも教えてくれない。

自分のことなのに、何にも覚えていない。

それをロウはしっている。

記憶がないことがこんなに苦しいことだと、初めてしった。

「真、行かないほうがいいかもしれない」

「え?」

「もっと行くべき場所があるよ」

「どういう意味?」

ロウが言うことは、みんな暗号のようで分からない。

「どうしてもって言うなら仕方ないけど・・・
早く思い出してくれ」

そう言って、ロウはすごく悲しい顔をした。

こうなったらロウがしゃべらないことをしっている。

「私、行くよ。みんなと離れる勇気がない」

そういうと、ロウは、小さくうなずいた。







本当に熊野への道は険しいものだった。

だが、真はみんなの足を引っ張りたくなくて、夏ばてにも関わらず文句も言わずに歩いた。

もともと一緒にご飯を食べることはなかったのでみんな気がついていなかったが真は最近ほとんど食べ物を口にしてなかった。

ロウだけは気がついていたがとくに何も言わなかった。

そういえば、ロウが何かを食べている姿を見たことがない。

「ロウって何たべてるんだ?」

「え?」

そう聞くと、ロウはきょとんとした。

「きっと、思い出すよ」

そして、そういうだけだった。

「?」




「真さん、ちょっといいですか?」

「?どうしたんだ、弁慶」

弁慶が二人きりで話そうなんていうのは珍しいことになっていた。

それでも、なんの疑問も持たずについていった。

「今日、何をたべましたか?」

「え?」

そういわれて、自分が何も食べていないことに気がついた。

「昨日は?」

昨日も、その前も。

もう数日間水以外なにも口にしていない。

「・・・・・・・どういうことでしょう?食べている様子はないのに全く弱った様子はありません」

真の顔色を見てそうつぶやく。

「あなたは、本当はなにものなんですか?
・・・・ともかく、このことはみんなには内緒にしましょう。
こんな話、どこかで・・・」

弁慶はそういったきり考え込んでしまった。

「私、夏ばてしてるにしてもこんなに食べてないなんて変だ」

だんだんと自分が何者なのか、心配になってきた。

心配は心配を呼び、不安をあおった。

「そんな不安そうな顔をしないでください。
僕たちだって、力になります」

「うん、ありがとう」

それでも、不安は消えることはなかった。
  

久々に更新!

これからどんどん原作と変えていこうとおもってます。
あしからず。

2006.07.26