3、還内府




、大丈夫なのか?」

みんなを待つあいだ、ロウに話しかけられる。

ロウを思い出したわけでも、知っていたというのかも分からないが、なぜかその歩き方をみていると何か思い出しそうになった。

「何が?」

「相手は還内府らしい・・・」

その言葉の意味が分からなくて、きょとんとしていると。

「い、いや何でもないんだ」

あわてたようにそういわれた。

どういう意味かは分からないけど、この人の知っている『』と還内府とは関係があるのかもしれない。



「還内府ってだれなんだ?」

が待つしかない間、それでも九郎はあわただしく働いていた。

「還内府は、小松内府が怨霊としてよみがえったからそう呼ばれているんだ」

九郎は、忙しいらしく、それだけ言うとその場を離れた。

「小松・・・内府・・・」

その言葉になぜか聞き覚えがあるきがしてもう一度言葉を繰りかえす。

、大丈夫か?」

その言葉について考えすぎて、ロウが近くまで来たことにさえ気がつかなかった。

「あ、あぁ。大丈夫・・・だ」

それまでロウを見てもなんでもなかったのに、その姿を振り返った瞬間、の体に異変が起こった。

「い、いた・・・」

突然は頭を抱えてその場に足をついた。

「ま、!?」

いきなり頭を抱えたをロウが受け止める。

「だ、大丈夫・・・ロウ、心
配しないで・・・」

狼?なぜか、今急にその漢字が浮かんだ。

「どうかしたのか?」

心配そうに覗き込んでいるロウの顔を見ると、いろんな記憶がに流れ込んでくるように入ってきた。

小さい頃の自分。

不思議なことに、はこちらの世界にいた。

そして、ロウと駆けている。
その姿は狼だったが、なぜかそれがロウだということが分かった。

小さい頃の自分が届かない枝になった木の実をロウが取ってくれている。

木の根につまずいて転ぶとあわてて走ってきて負ぶってくれる。

帰ると、ロウのお母さんがいて、泣いている私をあやしてくれる。

「狼
ロウ・・・」

たった3年といっていたが、二人の姿は8歳くらいの子供だ。

「何?、どうしたんだ?」

心配するその姿が、泣いていたに話しかける幼いロウの顔に重なった。

「どういう、ことだ?」

自分は確かに、6歳の時に拾われて、両親に引き取られて育ったはずだ。
それなのに、なぜ、拾われたときよりも前の記憶が、しかも、こちら側の住人であるロウとの記憶があるのか。

それに。

ロウは、あの時確かに狼の姿をしていた。
それなのに、なぜかおどろくこともなく、ロウなんだということが分かった。

「ロウ、お前は・・・」

ちょうどが口を開こうとしたとき、ざわざわと人の声が大きくなった。


「ロウ、疑って悪かった。確かに、陣は偽者だったらしい。
約束は守ろう。同行を許す。ただ、あやしい動きをみせたら・・・」

「分かっている」

望美たちが返ってきてその報告を聞くとすぐに九郎と弁慶がやってきた。

どうせ、白龍の神子である望美のことは知れ渡っているが、のことはあまり知られていない。

同じように別世界から流れてきたとしても、譲は八葉。望美は、白龍の神子。
しかし、はただよく一緒にいるだけであまり知られていなかった。

つまり、と一緒にいる人が増えてもそれほど気に掛けられないだろう。

「よろしく頼む」

これから、戦だというのにを追ってきたロウ。

さっきの記憶のとおりなら、ロウの言っていることはすべて本当ということになる。

ロウは、の知らないを知っている。

『還内府』とも、は関係があるのかもしれない。

「ロウ、この戦が終わったら聞きたいことがある」

「・・・・分かった」




幼い私との記憶。
けど、私はそのとき、もう両親に引き取られていたはずだ。

いったい、何が起きたのか。
それをロウが知っているかもしれない。


いままでは、ただ怨霊についてしか考えていなかった。
けど、もしかすると、この源平合戦と自分には何か関係があるのかもしれない。
なぜか、にはそんな予感がした。



  


ちょっとずつネタばらししたいけど・・・
一気にしてしまいそう。



2006.03.31