「桜はお好きですか?」



2、武蔵坊弁慶という策士




「きれいだと思う」

けど、スキかどうかは分からない。

そんな答えで弁慶は納得したのだろうか。

「本当に・・・なぞだらけですね。あなたは」

私にも、弁慶はなぞだらけなのに。

「白龍の力以外で神子と同じ世界から来て、怨霊の力を奪うことができる。
でもここ数日見る限り、何も悪い感じはしません」

そりゃそうだ。別に悪意はないんだから。

「ほら、桜の花がついてますよ」

そういって、髪の毛についた花弁をそっと払ってくれた。

「ありがとう」

そういうと、弁慶は笑ってくれた。

本当はここで頬を染めるべきなんだろうか・・・

「あなたは、本当にあまり話さないだけで
この桜のように純粋な方ですね」

そんな歯の浮くような評論はほしくない。

「きも・・・」

そういっても通じないだろうことを知っていて、そういう。

「肝?」

そんな私の言葉にいちいち目を丸くする弁慶がなんだかおもしろくて、
つい、私は笑ってしまった。








次の日。


「一緒に来ていただけませんか?」

一人で散歩をするよりも、だれかといたほうがいいと思ったのか
弁慶に誘われた。

「・・・・・」

一瞬何を言っているのか分からなくて黙っていたら、
春日さんから返事があった。

ちゃん、私はまだ練習しなくちゃいけないから行っておいでよ」

結局私に選択権はないのだろう・・・







黒い外套を追いかけてついたのは何をしに来たのか五条大橋だった。

「ここが五条大橋か」

「弁慶先生!」

かの有名な五条大橋に来たことを一人喜んでいたら、
町の人が弁慶に話しかけてきた。

「あぁ、傷はなおりましたか?」

なんて他愛ない話をするすがたに少し驚いた。
私は何をするでもなく、その姿を見ているだけだった。

ひとしきり人の話し終えると、弁慶の診療所らしい小屋に連れて行かれた。(連行?)

「私は使うためにつれてきたんだな」

「あなたもお暇だろうと思いまして」

それは、つまり肯定だろう。

「弁慶先生、その娘さんは?」

そりゃそうだ。そうも聞きたくなる。
あきらかに怪しい。

「知り合いの家で預かっている娘さんですよ」

「へぇ・・・」

結構普通にかえしてもらってよかった。
これが望美だったら「心に決めた人です」とかいうだろう。
まぁ、このすがたじゃあ、それが妥当だろう。

せっせと働くこと数刻。

私の顔に疲れが見えてきたころ、やっと帰る事になった。

「無駄だと分かっていても、やらずにはいられない」

それは、ここでの医療のことだろう。

「別にいいんじゃないか・・・また、ほかに何か考えればいいさ」

そう、あんまりしょげるので私らしくない言葉を掛けてやる。

「そう・・・ですね」

そう言って、弁慶は最初少し考えた後、私の頭を子供にするように撫でた。

「なんか、むかつく・・・・」

「おや、ほめているつもりだったんですが、お気に召しませんでしたか?」

子ども扱いされることに腹を立てている姿は、よく考えると子供そのものかもしれない。


「帰ろう!!!」

そう言って、さっさと弁慶をすててかえる。


「本当に・・・かわいい方ですね」

だから、そうつぶやいた弁慶の声は聞こえなかった。