「銀!!望美!!雨だ!!!!」

そう言って喜ぶ私を神子も銀も不思議な顔で見守る。

「本当に、ちゃんは雨の日好きだよね」

そう、私は雨の日が好き。

「外にでないでいいし、望美もほとんど家にいるし
雨の日はいいな」

最近、望美は呪詛のせいで調子が悪い。
それでも、散策などに出て行ってしまう。

もっと調子の悪い私はずっと部屋にこもらされるのに。


「しかし、神子のご友人のさまが喜ぶなら天も喜んで雨を降らすでしょう」

にこりと微笑んだ銀は、神子中心に回っているきがする。
白龍と同じだ。

「なにして遊ぼうか?」

子供のように言う私をみて大人たち(神子と銀)は目をあわす。

どのは、寝ていてください。冷えるでしょう」


また、仲間はずれだ。
でも。
仲間はずれには慣れている。



見舞いに来ていた二人は私が床に眠るのをみてそっと出て行った。

「あめ、あめ、あめ」

二人の足音が遠ざかった後、私は、そっと扉をあけて外の雨をずっと見ていた。




どの!!!」

どれくらいそうしていたのか分からないが、銀に話しかけられて我に帰る。



「あぁ、銀。神子は?」

そういうと、そっと手を取られ、部屋に連れて行かれる。

「御手がこんなに冷たくなられています・・・・」

そういえば少し寒かった気がする。

「大丈夫、これくらいで風邪はひかない」

心配そうな顔をした銀にそう声を掛けるが、効果はないみたいだ。
言ってから、自分が調子を崩していたことを思い出し、
無駄なことをいったと反省した。

「さぁ、火鉢に当たってください」

消えそうだった火鉢に銀が新しい燃料をくべてくれる。

「もうすぐ、雪になるな」

「えぇ。もっと寒くなります」

「雪もスキだ」

そう、雨も、雪も降ればいい。
そうしたら、夕日なんて見なくていい。

くもっていてもいい。

晴れなければいい。

どのはどうして雨がすきなんですか?」

銀にふいに聞かれたことがある。

あのときは、なぜだか分かってなかったが今なら答えれる。

「夕日を見なくてすむから」

火鉢をいじっていた銀とたまたま目が合って、はっとする。

「なんでもないんだ・・・」

そういっても、銀の悲しい顔は終わらない。

「ごめん。そんな顔してほしくないのに」

「いえ・・・」

そういって、火鉢にあたるように促してくれる。

「そういえば、望美は?」

「神子様は、八葉の方々とおられます。
帰りにもう一度お見舞いに来たのですが・・・ちょうどよかったですね」

「そうか、ありがとう」

神子にはみんないる。

私は、もう誰もいっしょにいない。

上に羽織った着物を手繰り寄せ、そっと目を閉じた。


「なぜでしょう。そうしていると何か思い出しそうになるんです」

「そう」

それはそうだ。私は銀にあったことがあるんだから。
いや、平重衡にあったことがある。

まだ、私が幼いころに。

重衡はあのころからやさしかった。

「思い出さなくていいものも、きっとある」

そうつぶやくと、銀がそっと頭をなでてくれた。

「どうしたの?」

そうたずねると、はっとしたように手を引っ込めた。

「す、すみません。ご無礼を!」

不思議。私の方が「ご無礼」なのに。

「大丈夫」

そう言って、目を閉じると火鉢の暖かさにいつの間にか眠ってしまったようだ。



目が覚めると、一人。

寂しいことなんてない。

昔からこうだったんだから。

雨はもう上がっていた。

体を起こすと、後ろに誰かいることに気がついた。

「銀」

そういうと、その人はこちらに目を向けた。

「よくおやすみでした。火の番をしておりました」

そうわらいかけてくれる。

火の番なんて、他の人に任せられたのに。
待っていてくれた。


まるで、私が寂しいのを知っているみたいに。

「ありがとう」

そういうと、今度は、ちゃんと銀は笑ってくれた。

夜なのに、すごく火鉢が暖かかった。