天敵、弁慶
「ヒノエ、やばい弁慶だ」
そう言って、ヒノエと一緒に木の陰に隠れる。
「うれしいね。一緒にいたいからって引っ張ってくれるなんて」
「黙ってろ」
絶対弁慶にヒノエと一緒にいるところは見られてはならない。
黒いオーラとともに何を言われるか分からないからだ。
「行った、みたいだな・・・うぁ!」
弁慶にばかり気にしていたら、ヒノエに木に追い込まれるような形になっていた。
「ヒノエ、何してんだ」
「え?かわいい姫君が腕のなかにいるんだぜ。
これは、かまわないとね」
そんな話をしていたわけでもないのにいまだとばかりに口説きはじめる、ヒノエ。
「そういうの、嫌いだっていっただろ」
こんな風に扱われるのは嫌いだから、いつも言っているのにやめない。
「望美だったら頬を染めてくれるぞ!」
かわいい望美なら、きっとヒノエに口説かれて頬を染めるだろう。
「そういうの、嫉妬っていうんだぜ」
今度は、顔がっ赤になる。
「違う!」
どんな思考回路してるんだ。
「ヒノエ」
聞こえてはいけないその声にはっと振り返る。
「さんを離しなさい」
にこにことした、しかし苛立ちを隠さない顔のまま弁慶が庭にあらわれる。
「ちぇっ、そいうの、デバガメっていうんだぜ」
けど、ヒノエが離れようとしたのでよかった。
と思ったが。
「は渡さないさ」
と、髪に口付けを落としてさっと木の上に登ってしまった。
「ヒノエ!!!」
怒りの叫びは彼の耳には届いたが、気持ちが届いたかは分からない。
ヒノエの一番の敵は弁慶だと思う。
2003.03.13