引っかき傷


「妬けるね」

猫をひざに乗せている私の近くを通りかかったヒノエに話しかけられた。

「猫。かわいいだろう」

撫でてやるとごろごろとのどを鳴らす猫に、先ほどのヒノエの声は聞こえないふりで話を進める。

「猫とはいっても、の膝の上は譲れないな」

そう言って、私から猫をはがしてしまう。

「いたッ!」

しかし、それを嫌がった猫から反撃を受けている。

「大丈夫か?」

引っかかれた手は少し赤くなっている。

「お前がなめてくれるなら大丈夫になるかもしれないな」

絶句している私の膝から
猫はどうしてもヒノエの存在が気に入らないのか去っていった。

「ほら、変なこと言うから行っちゃったじゃないか」

猫の方を名残惜しそうに見ているの顔をヒノエは自分に向ける。

「俺のことも相手にしてよ」

そう言って、どんどん接近してくる。

「いやだ」

そう言ってそこから逃れようとするがヒノエがそうはさせてくれない。

はつれないね」

そういいながらも楽しそうに私で遊んでいる。

「あ!ほら、血が出てるぞ」

ふと先ほど猫に引っかかれた場所から血がにじんでいるのが見えた。

「猫の爪はばい菌がいっぱいだぞ。早く弁慶に・・・」

「今度はほかの男の話?」

ふと顔をあげると、いつになくヒノエの顔は剣だった。

「どうしたんだ?ヒノエ」

の口から他の男の名前なんて聞きたくないね」

弁慶に怪我を見てもらうように言おうと思っただけなのに。

「ほら、俺の名前を呼んでよ」

優しく行っているが、これは強制で。

「ひのえ」

つぶやくように言っても、満足してくれない。

「ヒノエ」

そう、はっきり言うとぎゅっと抱きしめられた。

は猫みたいだ。気まぐれで俺のところじゃないところにすぐに行ってしまう」

そう、耳元で話しかけられる。

「猫じゃない」

いつも猫だと言われているが、私は猫なつもりはない。

「ヒノエ?」

その後ヒノエは離してくれなくて。

猫猫言われるのがしゃくで、少し爪を立てて抗ってみるが力を緩める気配は無い。

結局あきらめた私は、ヒノエが抱きしめてくれるままになる。

でもそれが暖かくて私はいつの間にか寝てしまった。



。ほら・・・もう夕餉の時間だってさ」

そんな声で目が覚めると、いつものヒノエの顔がすごく近くにあった。

「・・・・びっくりした」

私は、あのまま寝てしまっていて夕餉に呼ばれるまでヒノエは起こしてくれなかったらしい。

「残念だけど、俺たちの逢瀬は神子姫に邪魔されちゃったな」

ふと気がつくと、望美が申し訳なさそうに・・・頬を赤らめている。

「ご、ごめんね。二人とも」

「いいさ。別に神子姫を困らせたかったわけじゃないんだぜ」

まだ寝起きでぼんやりした頭にそんな会話が入ってくる。

「ほら、行こう」

そう言ってヒノエに立たせてもらって歩き始める。

、離すつもりはないからな」

そんなことを言うヒノエをジロリと一瞥して、
でも素直に一緒に歩き始めた。


ヒノエの手にはふた筋の赤い跡がついていた。