「濡れますよ」

散歩の帰り、うっかりしてて雨に降られてしまったら弁慶が迎えに来てくれた。

でも傘なんかは持ってきてなくて。
外套をかぶせてくれる。

「弁慶が濡れるだろう。私は寒いのにはなれてるから」

そう言って、返すが受け取ってもらえないのでかぶせてやった。

「君は・・・いけない人ですね」

そう、首をかしげる姿はとってもきれいだ。
と、思う。
濡れてるせいもあるのかもしれないが。



雨、ふれふれ




とにかく。あきらめてくれたみたいだな。

「ほら、帰ろう。濡れる」

そう言ってさっさと帰ろうとしたらぐっとつかまれて、周りが暗くなった。

「じゃぁこうしましょう」

走ったほうが速い。そう思ったが
肩に置かれた手は明らかにのけるつもりはなさそうだ。

「・・・分かった」

一緒に外套をかぶって帰った。

外套は全部雨を防いでくれるわけではないけど。

門のところでやっと肩に置かれた手が外れる。

「ありがとう。じゃ・・・」

それが、別れの合図だと思ったのは私だけだったらしい。

手は、離れようとしていた私の腕をつかんだ。

「そのまま入っていくと景時にしかられますよ」

いや、景時に叱られるなんてことは起こらないだろう・・・
普通に考えて。驚かれて、心配されるくらいだ。

「こちらから入りましょう」

弁慶の『こちら』は弁慶の部屋の方で。

さっさと入っていくと、乾いた布を持ってまた出てきた。

「早くしないともっと濡れますよ。また、苦い薬が飲みたいんですか?」

「い、いやだ」

そう言ってあわててその布を受け取ってガシガシ頭を拭く。

「貸してください」

そう言って私の手から布を奪うと 頭を拭いてくれる。

「あー、弁慶。ほら、やんできた」

帰ってきたらやむなんていじわるな雨だ。

でも、弁慶は違う考えをもったらしい。

「今日の雨は僕たちのために降ってくれたんですね」

こういうことをすぐ言うからいやなんだ・・・

「今すごいいやな顔したでしょう」

顔は見えないはずなのにそうやって言い当てる。

「でも、弁慶が迎えに来たんだから策略じゃないのか」

また雨の話に戻すと、くすくすと笑われた。

「そうですね」

私の髪が解放されたころ、雨は止んで光さえ見えてきていた。